「ピンシャン!元気体操」。みなさん聞いたことありますか。
前橋市が介護予防を目的に2006年に考案したオリジナル体操です。
市内でも積極的に行っている団体として知られているのが東地区の稲荷新田町自治会。市介護高齢課(現・長寿包括ケア課)が発行する広報紙にも取り上げられました。
高齢化社会への対応は、国や自治体だけの問題ではない。自分たちの健康は自分たち地域で維持する、という意気込みを感じました。それではレポートです。
会場となっている稲荷新田町公民館
手厚いボランティア
「40歳以上になったら、みんなやった方がいいですよ。絶対効果ありますから」。斎藤哲一自治会長(68)は、明るい表情で話します。2016年6月から自治会が主催し、現在は毎週水曜午前中に開催しています。取材した10月17日は106回目。
会場で皆を迎えたのが、黒いそろいのTシャツを着た斎藤さんら8人。首から何か下げています。
見ると、「介護予防サポーター」と書かれた札。地域で介護予防ボランティアを実践する人たちです。サポーターになるには規定の研修を受け、市から認定を受ける必要があります。
同町だけで現在11人。研修中の人もおり、12月には18人になります。随分と手厚い人員です。力の入れようが伝わってきました。サポーターが元気体操の指導役を務めます。
意外にきつい顔の運動
開始の午前10時を前に、続々とお年寄りが公民館にやってきました。70代後半から80代が中心ですが、自転車で来る人も。開始までは、にぎやかなおしゃべりタイムです。
定刻になると、斎藤さんが約40人の参加者を前に無理せず、できる範囲内で取り組むよう説明。体操とともに、「歩く」「笑う」「歌う」「人と外に出て話す」が大切だと呼び掛けました。
介護予防サポーターの女性のリードで準備運動をした後、六つの運動からなる「ピンシャン!元気体操」が始まりました。
最初は「食べる」「飲む」「話す」ために必要な顔や舌の筋肉を鍛える「お口アップ体操」から。目を閉じて「いー」「うー」の口をつくったり、舌を外に出して上下に動かしたりしていきます。
普段使わない筋肉を使っているからでしょうが、これが意外にきつい。顔の奥が何かムズムズするような気になります。
唾液がたくさん出て、食べ物が飲み込みやすくするよう、耳下腺や顎の舌を指で押すマッサージも。気持ちいいです。
歌いながら筋トレ
続いては椅子に座った状態でのストレッチ。大きく、ゆっくり上体をひねったり、股関節を広げたり、深呼吸も含めて計17種類の動きをしていきます。
次は、「もみじ」「われは海の子」といった唱歌を歌ながらの筋力トレーニング。座った状態で腕の上げ下げ、膝の曲げ伸ばしを行った後、立って椅子の背もたれに手をかけながら、かかとあげ、足を左右に振る運動などをしていきます。
持久力・バランス能力を高める足踏み運動、寝ながらストレッチをして体操は終わりました。
重いものを持ち上げる訳ではないのですが、ゆっくりとした動作が多く、筋肉に負荷がかかります。座った状態できるため、足腰が弱い人も取り組みやすい。立ったトレーニングも椅子の背もたれを持って行うため、転倒リスクが軽減されるように感じました。
広がる体操の輪
ピンシャン!元気体操は、藤岡市鬼石地区で取り組まれている、介護予防の筋力トレーニング「鬼石モデル」を参考に開発されました。市によると、顔や舌を鍛える運動を取り入れている点に特色があるといいます。自治会が開くサロンなどで行われているほか、50団余りの自主グループもできました。
みんなとやるから続けられる
こうした地域活動は女性が多くなり、男性の参加が少ないのが一般的です。しかし、稲荷新田町では、男性の参加が多いのが特長。今回約40人の参加者のうち、3分の1は男性でした。理由は地元な声かけにあるといいます。
体操をして歩く力が回復した男性がいます。木村英昭さん(76)は脊椎管狭窄症で、かつては10㍍歩くたびに休憩が必要でした。妻の安枝さん(70)に勧められ、2年前に体操を始め、毎日継続したところ、現在は1キロ休憩せず歩けるようになったといいます。「こういうところに出てくるのは嫌でしたが、体操を続けているうちに歩けるようになりました。自宅で体操をやろうとしても続かない。公民館に来るから続けられます。周囲の人にも参加するよう声を掛けています」と話していました。