社会問題となっている高齢者の孤立・孤独をなくそうと、前橋市大利根町を拠点に若者たちが奮闘しています。NPO法人ソンリッサ(萩原涼平代表理事)のメンバーで、2022年9月に大利根町に事務所を構えました。自治会メンバーや民生委員、行政などさまざまな関係機関と連携しながら、介護保険制度では対応しづらい高齢者の孤立・孤独を解消し、つながりのある地域社会の実現に向けて動いています。萩原さんは「高齢者のやりがいや生き方などを踏まえた上で、その人の自己実現につなげたい。大利根町をモデルにして群馬全体に展開していきたいです」と未来を見つめています。
福祉の専門職が孫のように寄り添って
メンバーは、介護福祉士や作業療法士などの資格を持つ20~30代の若者たち。お年寄りたちから見れば孫のような存在です。自分たちを「まごマネージャー」と名付け、専門的な知見を生かしながら、一人暮らしのお年寄りの自宅を訪ねて話を聞いたり、日常の困り事を解消したりしています。主力事業の見守りサービス「Tayory(タヨリー)」(1回4000~5000円)の名称で、健康や運動に関するアドバイス、スマホ操作のサポート、旅行計画作り、病院の付き添いなど、きめ細やかく対応。遠方で暮らす家族には健康状態や認知症の進行など日常生活の変化をレポートしています。
さらに、前橋や高崎、伊勢崎など県内各地で定期的にふれあいの場づくり「地域サロン事業」を展開しており、ヨガや健康、防犯、ワクチンサポートなど多岐にわたる内容を提供し、これまでに1500人以上が参加しました。
企業向けに認知症高齢者への対応などについて研修事業も実施しています。
一人暮らし高齢者の少ない会話頻度
県内における孤独状態の高齢者は概算で4万人弱と推計されています。内閣府高齢化白書(2014年)によると、一人暮らし高齢者の会話頻度は「2、3日に1回以下」が4割を占め、男性に限っては6人に1人は「月に2回以下」の状況にあります。この時よりもコロナ禍でコミュニケーションが取りづらくなり悪化しているとみられます。
群馬県では自動車免許の返納をきっかけに孤立するケースが多いことも指摘されています。
きっかけは祖父を亡くした祖母の姿
萩原さんが高齢者の孤立・孤独に目を向けるようになったのは、祖父を亡くした祖母の様子がきっかけでした。
「前橋で会社経営をしていた祖父が亡くなった後、祖母が一人暮らしになりました。外との接点がなくなってしまって、コミュニケーションを取らないようになり、僕が高校生のときに、おばあちゃんの家に行くと、暗い顔をして家でぼーっとしてました。それを見ていて、やるせなさを感じました」
ちょうどその頃、NHKの「無縁社会」の報道があり、独居高齢者問題がクローズアップされていました。「祖母のような状態の人は、こんなにいるんだと衝撃を受けた」といいます。高校時代から介護保険制度など高齢者に対する制度に興味を持って調べるようになりました。
高校卒業後、東京に出ましたが、群馬県甘楽町の地域おこし協力隊に入り、2017年5月、22歳の時にNPO法人ソンリッサを設立しました。初めに取り組んだのが、高齢者のスマホ教室でした。そこでの成功体験があります。
「高齢者でもスマホ覚えが早い人はかなりいて、教えると講師側に回ってくださる高齢者がいました。サポート側に回ったお年寄りは役割ができ、人とのつながりが増えました」
孤立高齢者は「心配しなくて大丈夫」「孫の生活を優先してほしい」と口にはしますが、本音の部分では「本当は寂しい」と感じているといいます。交流を求めても我慢し、なかなか声を上げられないのが高齢者だと感じました。
次のステップとして、甘楽町の元気な高齢者と、全国の一人暮らし高齢者をビデオ通話でつなぐ、顔の見える会話型見守りサービスに取り組みました。事業プランは高く評価され、ソーシャルビジネスの登竜門「YYコンテスト2017」社会人部門(35歳以下)で優勝し、日本代表としてフランス・パリで開かれた国際会議でプレゼンテーションも行いました。「群馬イノベーションアワード(GIA)2017」でも入賞しました。
ただ、この事業は継続性に課題がありました。うまくいかず、その後、地域の社会課題を解決できる人材を育成する福島県南相馬市の一般社団法人「あすびと福島」代表の半谷栄寿氏に誘われ、同法人で1年半修行しました。メディアでも度々取り上げられる半谷氏が率いる組織は、少人数ながらスピード感をもって複数の大きなプロジェクトを手がけ、経済産業省の委託事業や企業との連携事業に必死で取り組みました。「厳しかったですけど鍛えられました。一番成長できました」と振り返ります。
大利根町をモデルに群馬全体に展開目標
前橋に戻り、フリースクールの運営や児童養護施設の学習支援に当たるNPO法人で働いた後、2年前にNPOを辞め、ソンリッサの活動に専念します。
高齢者の孤立・孤独に向き合う萩原さんが注目したのが、前橋市大利根町でした。造成から半世紀が過ぎた大利根住宅団地は県内の大規模団地開発の草分け的な存在です。住宅が整然と並ぶ閑静な住宅地ですが、高齢化が進んでいます。2022年9月現在の高齢化率は大利根町一丁目は36.25%、二丁目は40.67%と、前橋市東地区でも高いエリアとなっています。
こうした状況を踏まえ、ソンリッサは昨年9月、大利根中央公園東側に事務所を構えました。地域の活動拠点となっている大利根公民館は目の前です。地域の自治会長や包括支援センター東や東公民館の関係者らと何度も話し合う中で、少ない民生委員で多くの独居高齢者を支援している実態が見えてきました。
そうした課題にNPOだけで対処するのではなく、地域を支える多様な団体と手を取り合いながら課題解決を目指しています。ソンリッサの理念や活動に賛同し、ボランティアで関わってくれる学生らが続々と集まっています。大利根町をモデルに、群馬全体や近県にも活動を展開したい考えです。
「1人1人の思いを大切にしながら、地域のハブになりたいです。高齢者の役割につながる選択肢を増やしていきたいですが、NPOだけでは小さく限界がある。多様な人々、企業や団体が地域の一員として地域課題の興味関心を持って関わることができるような、温かくて優しい社会を目指していきたいです」。若者たちの挑戦が地域を変えようとしています。
NPO法人ソンリッサ
〒371-0825
前橋市大利根町1-30-8 斎藤貸住宅 西南2番
受付時間 9:00 - 17:00
電話番号:027-226-5013