子ども向けの料理教室「食育ランドわくわくキッチン」(前橋市箱田町)がオープンしました。2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大により学校や地域でさまざまなイベントや行事が中止・縮小されてきたなかで、「料理を通して子どもたちが楽しい思い出をつくれる場所を提供したい」と、会社員だった増澤くるみさんが起業しました。単に調理の方法やレシピを伝えるだけでなく、大切にしているのはクリエイティブな感覚。腕まくりをした子どもたちが生地からうどんをつくったり、鬼の形のパンを作ったりと自由な発想を発揮しながら、季節に応じた料理やスイーツにチャレンジしています。
両親が与えてくれた楽しい「食」の記憶
教室の場所は前橋東中学校のすぐ近く。虹色の外観が一際目を引きます。室内は小中学校の家庭科室を彷彿させる本格的な造りで、調理台や洗い場、オーブンやミキサーなど、調理に必要な設備と道具がそろっています。
増澤さんは食べることに重きを置く家庭で育ちました。父親がかつて病気をしたことがあり、以来、増澤家では食材にも気を配るようになりました。母親は丁寧な手料理で家族の健康を支え、子どもたちの誕生日にはいつも手作りケーキが食卓に並びました。増澤さんは「母親が料理する姿を見て『何を作っているんだろう』と興味が湧いて手伝っていました。料理が好きになったのも母の影響が大きい。食に関する楽しい思い出がたくさんがありました」と振り返ります。
会社員を辞めて当初はテイクアウトの店を開こうと、店舗を借りました。ところが、コロナ禍により行動制限が始まり、学校行事や部活動が次々と中止に。「思い出に残る行事が全てなくなり、子どもたちが楽しく体験できる施設にしたいと思うようになりました。私自身、料理が好きなので料理を通して楽しい場所を提供したいと考えました」
会社員を辞めて独立、起業の大変さも
子ども向け料理教室の開業を決意し、開店準備を始めました。周囲の人に教えてもらいながら集客のためのホームページを自らつくり、四苦八苦しながら予約から決済までウエブ上で完結するサイトにしました。「教室にきたら支払いはなく、楽しむだけにしたかった」と、ユーザー目線に立って利便性向上に力を入れました。
食育ランドわくわくキッチンHPはこちら
施設がオープンする前の2022年8月、手始めに沼田市で落花生の収穫体験を実施しました。参加した児童の中には、落花生が土の中で育つことを知らない子も多く、貴重な食育の時間になったといいます。昨年秋に箱田町の施設で初めて料理教室を開きました。
素材の美味しさを生かす味付け
教室はその都度予約して参加する1回完結型。地元の農産物をできるだけ使用し、素材の味を生かす味付けを伝えています。例えば、ケーキを作る際にも甘味を抑え、素材の美味しさが分かるレシピにしています。
「ただ作るだけでなく、食材の持つ味や香りを感じ、自分がどう感じたかを大事にしてほしい。例えば、たくさんのスパイスを並べて、その中から自分が「いいな」と感じたパイスを選んでもらい、フィリングを作るということもやりました。子どものクリエイティブな発想を生かし、『こうしてみたい』という気持ちを大切にする教室です。多様性が求められる時代の中で、さまざまな文化も知ってほしいので、世界の行事食というのもやっていきたいです」
保護者にアンケートをとったところ、「子どもの野菜嫌いを克服させたい」という要望が多くありました。「ニンジン嫌いな子どもには食わず嫌いな子もいます。1回挑戦してもらって、苦手な野菜を食べられるような教室も企画していきたいです」
夢は農場併設の料理教室
活動はホームページのほかに、インスタグラムでも発信しており、子どもたちの作った料理やイベントの告知
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今後は農業体験にもより力を入れる考えです。料理を作るだけでなく、生産現場に直接行って、どういう風に農産物が育ち、自分たちの食卓まで届くのか知ってほしいといいます。
さらに長期的な目標も見えてきました。それは、農作業と料理が一緒に楽しめる場の実現。「隣に作物を育てられる畑があって、農作業と料理を一度にできる施設をつくりたい。自分で収穫した野菜を、すぐ調理して食べられるような施設をつくることが大きな目標です」。増澤さんの夢への挑戦は始まっています。